遺言書の作成準備
遺言書を作成するには、事前の準備がとても大切です。相続人や相続財産の調べ方を見ていきましょう。
相続人を調べる
遺言書をつくらなかったとしたら、相続はいったいどうなるのでしょうか?
まずは、そこから調べなければいけません。
ここからは、法律の知識が更に必要となるので、遺言書作成のうえでの「壁」になるところです。
自分で考えてみてわからなければ、専門家の助けを借りたほうがよい場合もあるでしょう。
①法定相続人を調べる
- 戸籍上の配偶者は常に相続人となります。
- 配偶者以外の血縁がいる場合は、次のような順位で相続人となります。
第1順位…子ども(胎児は生まれたものとする)
第2順位…父母
第3順位…兄弟姉妹 - 先順位の人がいれば、後順位の人は相続人になれません。
- 相続権のある人が既に死亡している場合は、その下にいる人が代わりに相続することになります。(代襲相続)
- 子どもが死亡している場合は孫やひ孫というように何代も相続できますが、兄弟姉妹は甥姪の一代限りです。
- 父母がいない場合は祖父母が相続します。
⇒法定相続人は何人いましたか?
②法定相続分を調べる
- それぞれの相続人の相続割合は、相続人の組み合わせによって異なります。
配偶者と子ども…それぞれ2分の1
配偶者と父母…配偶者が3分の2、父母は3分の1
配偶者と兄弟姉妹…配偶者が4分の3、兄弟姉妹は4分の1 - 同順位の相続人が2人以上いる場合は、相続分を均等に分けます。
- 非嫡出子(認知した子)の相続分…嫡出子の2分の1
- 半血の兄弟姉妹(父母の一方のみ同じ)の相続分…父母双方が同じ兄弟姉妹の2分の1
- 養子の相続分…実子と同じ
⇒それぞれ法定相続分はどれくらいありましたか?
財産目録を作成する
財産についての記憶があいまいなまま遺言書を書きはじめると、所在地などの記載を間違えて、実際には存在しないものを財産として、あとでトラブルの原因になるおそれがあります。
相続の際に財産の調査で遺族が困ることのないように、今現在の財産状況をできるだけ正確に把握しておきましょう(それぞれの作成日も記入しておきましょう)。
下記の表は相続財産を一覧にした見本です。ご参考にしてください。
①現金
保管場所 | 金額 | 備考 |
---|---|---|
自宅金庫 | 500,000円 | |
円 | ||
合計金額 | 500,000円 |
②預貯金
金融機関 | 支店名 | 種別 | 口座番号 | 金額 | 満期日 |
---|---|---|---|---|---|
◯◯銀行 | ◯◯支店 | 普通 | 1234567 | 3,000,000円 | |
◯◯銀行 | ◯◯支店 | 定期 | 0123012 | 1,000,000円 | H26.7.3 |
円 | |||||
円 | |||||
合計金額 | 4,000,000円 |
③有価証券
証券会社 | 銘柄 | 株数 | 証券番号 | 金額 | 購入・満期日 |
---|---|---|---|---|---|
◯◯証券 | ◯◯電機 | 350 | 2,000,000円 | ||
◯◯証券MMF | 270,000円 | ||||
◯◯証券国債 | 利付3年 | 789567 | 800,000円 | H20.8.3購入 | |
合計金額 | 3,070,000円 |
④貴金属・自動車等
品目 | 預け先 | 数量 | 金額 | 備考 |
---|---|---|---|---|
版画 | 1 | 1,000,000円 | 棟方志功作 | |
ダイヤの指輪 | 1 | 500,000円 | 1カラット | |
自動車 | 1 | 2,500,000円 | 平成18年式ワゴン | |
合計金額 | 4,000,000円 |
⑤土地
所在地 | 地目 | 地積 | 所有割合 | 共有者 | 評価額 |
---|---|---|---|---|---|
◯◯県◯市◯町◯丁目 | 宅地 | 192.35㎡ | 100% | なし | 35,000,000円 |
円 | |||||
合計金額 | 35,000,000円 |
⑥建物
所在地 | 種類 | 面積 | 所有割合 | 共有者 | 評価額 |
---|---|---|---|---|---|
◯◯県◯市◯町◯丁目 | 居宅 | 1F80.3㎡ 2F75.6㎡ | 100% | なし | 6,000,000円 |
円 | |||||
合計金額 | 6,000,000円 |
⑦事業用財産
細目 | 所在地 | 名称・年式 | 評価額 | 備考 |
---|---|---|---|---|
製品 | ◯県◯◯市◯町◯丁目 | 製品A | 400,000円 | 在庫50万円前後 |
機械 | ◯県◯◯市◯町◯丁目 | ◯型47年 | 250,000円 | |
合計金額 | 650,000円 |
⑧借金・債務
細目 | 借入先 | 借入日 | 返済日 | 金利 | 元本 | 保証人等 |
---|---|---|---|---|---|---|
住宅ローン | ◯◯会社 | H16.6.1 | H31.3.8 | 3% | 8,000,000円 | |
自動車ローン | ◯◯会社 | H20.7.2 | H23.7.4 | 5% | 500,000円 | |
消費者金融 | ◯◯金融 | H21.6.5 | H24.1.5 | 9% | 300,000円 | |
合計金額 | 8,800,000円 |
相続人の依存(特別受益)と貢献(寄与分)を考える
長女が生前に、住宅購入資金や結婚の支度金をもらっていて全員が同じ分だけ相続することになった場合、次男がいれば何か言いたくなるでしょう。
また、相続人が仕事をやめて介護に専念した場合には、有料の介護者を雇ったのと同じ分だけの財産の維持に貢献したといえます。
このように、相続人との過去の関係を考慮して、できるだけ公平に遺産を分配しようとする制度が、特別受益と寄与分です。①が特別受益、②が寄与分の算出方法です。
①相続財産+特別受益=みなし財産→最後に受益分を引く
- この計算をしなくても、遺言で特別受益を相続財産に戻さなくていいとしたり、相続人全員の合意で特別受益を考慮せずに遺産分割をする場合もあります。
②相続財産-寄与分=みなし財産→最後に寄与分を加算
- 寄与分は法定相続人だけに適用されます。
誰に何をあげるかを決める
①相続人の生活状況を考える
- 遺言書には載せなくとも、誰かにもらってほしい物(高価なものは除く)は、形見分けの覚え書きをのこしましょう。
②借金はどうしたらよいか?
- 仮に、子供の1人が全額引き受けたとしても、それは相続人間でのみ有効で、債権者に対しては主張できません。なるべく生前に返すか、遺言で返済の指定をするとよいでしょう。
遺留分に注意する
遺言によって、遺言者は自由に自分の財産を処分することができます。法定相続分と違う形で相続させることも可能です。
しかし、本来もらえるはずの全財産が見ず知らずの第三者に渡されるとなると、残された遺族は不満を感じるでしょうし、幼い子が相続人の場合、生活の安定にも配慮しなければなりません。
そこで、遺言書の内容にかかわらず、各相続人には最低限、相続できる権利(遺留分)があります。①は遺留分の算出方法です。
①遺留分=全体の遺留分×各相続人の法定相続分
- 遺留分が侵害されたからといって、その遺言がまったく無効となるわけではありませんが、遺留分を侵害するとトラブルのもとになるので、十分気をつけましょう。
- 全体の遺留分
配偶者と子ども…2分の1
配偶者と直系尊属…2分の1
配偶者のみ…2分の1
子どものみ…2分の1
直系尊属のみ…3分の1
兄弟姉妹のみ…ゼロ
②遺留分減殺請求の対応策を考える
- 遺留分を侵害された人は、その分の支払を求める遺留分減殺請求ができます。もし、相続開始及び遺留分を侵害する危険があることを知ってから1年以内、または相続開始から10年以内に遺留分減殺請求をしなければ、権利は消滅します。
- どの財産から遺留分を減殺するかを遺言書に盛り込んでおきましょう。
- 遺留分があるのは、配偶者・子ども・親・祖父母までで、兄弟姉妹には認められません。
- 遺留分を侵害された相続人が承諾しているなら必ずしも遺留分を守る必要はありません。
必要書類をそろえる
①相続人の調査――――
対象 | 目的 | 資料 | 取寄先 |
---|---|---|---|
相続人の範囲 | 相続人の特定 | 戸籍謄本 | 市区町村役場 |
除籍謄本 | |||
改正原戸籍謄本 |
②相続財産の調査
対象 | 目的 | 資料 | 取寄先 |
---|---|---|---|
不動産 | 土地建物 | 登記簿謄本 | 法務局 |
地役権図面 | |||
賃貸借契約書 | |||
土地区画・形状 | 公図 | 法務局 | |
地積測量図 | |||
建物所在図・各階平面図 | |||
不動産評価 | 固定資産評価証明書 | 市区町村役場 | |
路線価 | 国税庁 | ||
鑑定評価書 | 不動産鑑定士・不動産業者 | ||
売買契約書 | |||
立木 | 立木登記簿謄本 | 法務局 | |
動産 | 動産 | 貸金庫・倉庫の契約書 | |
預貯金 | 預金通帳 | ||
自動車 | 車検証 | ||
登録事項証明書 | 運輸支局 | ||
有価証券 | 株式 | 事業報告書・配当通知書 | 発行会社 |
預り口座明細書 | 証券会社 | ||
ゴルフ会員権 | 会員証 | ||
保険 | 各種保険 | 保険証書 | |
契約状況の通知書 | 保険会社 | ||
祭祀財産 | 墓地・霊園 | 契約書・使用許可証 | |
債務(借金など) | 消費貸借契約書 | 金融機関 | |
返済計画表等 |